ストレスが原因で視力低下?心因性視覚障害の対策や治療法をご紹介!
精神的なストレスが不眠や倦怠感、肌荒れ等。なんらかの症状で身体面に表れた経験はありますか?
▷わたしは昔病棟で勤務していたころ、手のひらの皮がほぼ全部剥がれてしまったことがあり、ストレスとの関係性を病院で指摘された経験があります。症状等に個人差はあると思いますが多くの方は経験があるのではないでしょうか。精神面と身体の状態は密接に関わりあっています。
それは眼科の側面であらわれることがあります。
眼科で弱視と間違われやすいケースの一つに“心因性視覚障害”というものがあります。今回はストレスと視力の関係性、眼科でみかける“心因性視覚障害”について触れていこいうと思います。
心因性視覚障害とは
ストレスによって発症する心身症です。検査をしても病気などの悪いところは見つからず、矯正を行っても視力がでないと疑われます。子どもに発症することが多く、学校の定期検診で見つかることも。
視力障害をはじめ、求心性視野狭窄やらせん状視野などの視野障害、色覚異常、調節けいれんといったさまざまな視機能障害を心理的要因によって呈する疾患を指します。
10歳前後(9歳をピークに7~12歳)の小中学生に多く、女子は男子よりも2倍発症しやすいです。
視力以外にも視野や視覚の異常、夜盲等も伴う場合もあります。
両眼性のものが多いとされますが片眼性のものも多く報告されています。かつては心理的要因が転換性(強いストレスに圧倒されたときに生じる“解離症状(ストレスへの防御規制)”のひとつです)の心因性視覚障害“ヒステリー弱視やヒステリー盲と呼ばれていた”としての報告が多かったとされていました。
近年では心理的要因のはっきりしない非転換性の心因性視覚障害が大部分を占めることがわかっています。非転換性の原因として、前思春期という心理的にも眼器官の完成度の点でも弱い時期に起こるわずかな心的ストレスが影響していると考えられています。
参考文献:小児の弱視と視機能発達P66 三木敦司・荒木俊介2020
学校あるいは就学時健診での視力検査で視力不良を指摘されるまで、視力障害を自覚していない場合が多いとされています。その反面、日常生活の行動はできているのに対し強い視力障害を訴える場合もあります。
視力は両眼視で0.3以下であることが多く、視力は測定の度に変化し、しかも低下していくのが特徴です。
参考文献:視能学第2版P437 久保田伸枝
原因は学校や家庭環境による場合が多いとされています。
学校関係では、進学/受験/転校/いじめ/担任の先生との関係等があり、
家庭関係では、両親の離婚や別居/祖父母の同居/兄弟喧嘩などがありますが、一概には言えず、個人の環境、感受性も様々であるため慎重に関わっていく必要があります。
参考文献:視能学第2版P437 久保田伸枝
心因性視覚障害の対策
(心因性視能障害の治療)
暗示法、偽薬の投与で比較的短期間に視力が回復する場合があります。
心因性視能障害の原因になっていると考えられるものを可能な限り除去し、周囲の理解、サポートが重要です。
(暗示療法)
・視力が回復すると暗示をかけて、副作用の少ない点眼薬を投与したりすることがあります。
・小児の場合は点眼する時に“だっこ点眼”を行い親子のスキンシップをとることも効果的であることも。
・患児によっては眼鏡をかけてみたいという願望から心因性視能障害を発症する場合も。(発症原因全体の10%)
話し合いで眼鏡をかけてみたいという意思があれば屈折異常がない場合でも度なしの眼鏡作ってかけてもらうという方法もあります。
(眼科以外での治療)
・絵画療法
・行動療法
・遊戯療法
などの心理療法が有効であることもあります。
これらの対策をとっても解決しない場合にはケースワーカーによる心理面の援助が有効であることあるため他科との連携も重要です。
参考文献:視能学第2版P439心因性視機能障害の治療 久保田伸枝
心因性視覚障害になってしまったら、ストレスの原因を取り除くことが重要です。失明にいたることはなく、長期的に経過をみる必要があります。眼科的な検査を一通り行っても原因が見つからない場合に、心因性視覚障害の発症が疑われるので対策を行うことが大切です。
子どもの対策
子どもの場合は、学校や家庭環境のストレスで発症するため、ストレスの原因の解決に努めることが大切です。ストレスは精神的なもので、子どもの性格も関係します。なかなか判断がつきにくいですが、原因を考えてあげましょう。
変わった原因としては、友人や先生の影響によるメガネ願望で発症した事例もあります。その子どもは度の入っていないメガネをかけるだけで、視力が回復しました。
大人の対策
大人の場合は、職場でのストレスや配偶者との離別などが原因で発症します。眼科だけでなく、精神科の受診なども検討しましょう。もちろん、ストレスの原因を取り除くことが一番の対策になります。
子どもと比べて発症する人は少ないです。しかし、眼科的な治療を行っても原因が見つからないときは、心因性視覚障害の可能性があります。日々の生活の中で、ストレスに感じているものから距離をとることが大切です。
心因性視覚障害は回復する?
心因性視覚障害は一時的な現象なのでかなりの確率で回復します。眼科的には異常がないので、ストレスの原因を取り除いて長期的に経過をみてあげましょう。心因性視覚障害が原因で失明することはほとんどありません。
ストレスは簡単には解決できないので担任の先生などに相談しながら、心配をしすぎないことも大切です。小学生には暗示療法も効果的なので眼科以外の治療も検討していきましょう。
眼科臨床現場では
わたしが勤務している病院にも、心因性視能障害のお子さんが親子で来院されることがあります。そういう時は診察が終わった後に院長が保護者の方をこっそり呼んでお話を聞いたりすることもあります。
両親の共働きや弟妹が増えたなど原因は様々で、無自覚のまま経過し、健康診断で検出されることもあります。
わざと気をひこうとしている!と偏った考え方をしないことが患児と関わる上で重要であると思います。
心因性視能障害は弱視など放置してはいけない眼疾患と間違われやすいため、眼科医の鑑別診断のための視力検査や視野検査に関わる視能訓練士の役割は重要です。視力が出なかったり応答が曖昧であっても検査者の焦りはこどもにも伝わります。苦戦もしますが冷静に柔軟に検査できるよう、不安を抱えている保護者も話しかけやすいように心がけています。
こどもの心は当然ですがそれぞれ個性があり、とても繊細です。そのため期間の断定はできませんが、長くも短くもいずれは回復することがほとんどです。長い期間でみて、保護者の方が過度に心配してしまわない様にサポートすることも必要だと考えています。
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ストレスが原因で起こる心因性視覚障害について対策や治療法をご紹介しました。主な視力低下の原因を検査しても見つからない場合に、診断されることが多いです。保護者は過度に心配しすぎないようにしましょう。
対策にはストレスの原因を取り除いてあげることが大切です。学校や家庭環境など、さまざまな原因が考えられので解決に努めてあげましょう。自分だけで考え込まず、眼科以外の診察や学校の先生への相談なども検討することが重要です。
長期的にみれば視力回復することが多いです。焦らずに対策や治療を行っていきましょう。
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<参考記事>
子どもの目の心身症 -心因性視力障害- | 目についての健康情報
眼の疾病について 心因性視力障害 | スカイビル眼科【公式】
169.心因性視覚障害とは | 池袋サンシャイン通り眼科診療所
視力が悪くなる原因と対策|近視、遠視、老眼のメカニズムも解説 - 先進会眼科コラム
疲れ目と異なる眼精疲労とは?主な症状や起こる原因5つ・治し方を解説
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この記事を監修した人
松井萌珠さん
看護師・視能訓練士(広石眼科医院) / 北九州市出身 2008年看護師免許取得
病院勤務を経て医療法人広石眼科医院入職(現職)。眼科検査の重要性を痛感,勤務しながら九州保健福祉大学で学び2021年視能訓練士免許取得。小児眼科を辰巳貞子先生(小児眼科医)平良美津子先生(視能訓練士)に師事。眼科勤務に邁進しつつ、みるみるプロジェクトアンバサダーとして子どもの眼の啓発活動にも取り組む。